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2015年12月15日

藤沢からスモークフリーを全国へ ~私の禁煙推進活動~(長谷章)

 神奈川県藤沢市にある長谷内科医院の院長を務めている長谷章と申します。振り返るともう20年以上にもわたり、地元・藤沢市を中心に日本の禁煙化に取り組んでいます。

 私が禁煙活動を始めたきっかけは祖父と父の死でした。どちらも医者であり、大変なヘビースモーカーでもあった祖父と父は、タバコが原因で奇しくも56歳という同じ歳に心筋梗塞を発症し、何とか一命はとりとめたものの、早くに他界してしまったのです。タバコの恐ろしさを身をもって体験しました。父の死を機に私もタバコをやめたのですが、その時に、ふと、医者でありながらタバコに関する正しい知識を持っていないことにも気がついたのです。そこで専門家にお話を聞いたところ、世界各国と比べて日本の禁煙化があまりも遅れていることを知り、これはぜひ取り組むべきだ、と決意しました。喫煙は本人のみならず、家族や周囲の方の健康、ひいては人生にまで害を及ぼします。タバコによる被害を食い止めたい、その思いが活動の原動力です。

 最初は藤沢市内を中心に、一人で禁煙化を呼びかけました。具体的には、私は食べることが好きなので、近隣の飲食店の店長さんに禁煙化を要望して歩いたのです。また、患者さんから「○○駅の喫煙所が年中モクモクしている」という情報を得ると、駅長に禁煙化を要望したり、仕事で付き合いのある銀行の責任者に会って禁煙化を求めたり、さらには、県内のデパートなどへ顧客を代表して社長にメールで禁煙化を訴えるなんてこともやりました。

 禁煙化を要望するにあたり、その説得材料のひとつとなったのが2003年に制定された「健康増進法」の第25条です。これは「多数の者が利用する施設」での受動喫煙の防止を義務づけた法律です。この法律により同年には銀行、郵便局、関東の私鉄が禁煙化され、その後、タクシーやJRの禁煙化へと拡大していきます。

 この流れのなかで藤沢市の医師会も本格的に禁煙活動に取り組むことになり、私が中心となって「藤沢市医師会禁煙運動推進委員会」を立ち上げました。内科、外科、耳鼻科、小児科など、各科の代表者が集まって委員会を結成し、さまざまな活動を検討・実行していくことになったのです。このサイトの運営主体である「スモークフリージャパン」の代表理事で、前神奈川県知事の松沢成文さんが、マニュフェストの「一丁目一番地」に「受動喫煙防止条例の制定」を据えて知事選を戦った時には、これを強力にバックアップする活動も行い、2011年4月には、全国初となる同条例の実現をさせることもできました。

 この条例の実施により神奈川県の成人男性の喫煙率は本当に劇的に下がりました。神奈川県のような人口の多い大都市では喫煙者も数多く存在するため、条例の施行は困難とも思えただけに、まさに快挙といえるでしょう。また、同条例により、県民全体の健康管理に対する認識が高まったことも大きな成果です。

 さて、私は、『ごくうま-湘南の禁煙レストラン』という本の出版にも携わっています。この本は、”ごはんも空気もうまい”をキーワードに、約3年をかけて藤沢、葉山、茅ケ崎、鎌倉などの飲食店を調査し、湘南エリアの厳選した約50店を「完全禁煙」と「ランチのみ禁煙」に分けて、カフェ、フレンチ、イタリアン、すし、和食など、各種店舗の自慢の料理を写真で紹介しているもので、出版のきっかけは、私と共に監修にあたった、内科医の横井泰先生の奥様のユニークな行動にありました。

 たとえば、気に入ったレストランで食事中に煙草の煙を感じると、横井夫人は、その場でお金を払って店を出てしまうのですが、その際に「今日は帰りますけど、おいしいからまた来ます」とおっしゃるのです。これを繰り返すと店側は対応を考えるようになり、ランチタイムだけでも禁煙にする店が増えたそうです。

 そんな横井夫妻から誘われ、湘南エリアのおいしいものを、きれいな空気の中で楽しめる、そんな飲食店を全国に紹介しよう、ということになり、主に私が和食を、横井先生が洋食を担当して、禁煙を徹底しており、かつ、本当においしい食事を堪能できるお店にこだわり抜いて執筆を進めました。

 取材を行っていた頃は、「常連に愛煙家のお客さまがいるので禁煙化しにくい」といったお店の声もよく聞いたものです。そんな時には「グルメと禁煙をテーマにしたユニークなガイドブックで貴店を紹介したい。ぜひ禁煙化してほしい」とお願いしました。

 禁煙化すると喫煙者のお客様が来なくなる、と思われるでしょうが、実はそうではありません。一時的に客足は遠のくかもしれませんが、お店の味・サービスがよければ絶対にお客様は戻ってきます。それどころか、家族連れのお客様が増えたり、料理やお酒の注文が増えたりと、さらなる集客と売上アップをもたらすのです。これは禁煙先進国である諸外国で既に実証済みです。

 イギリス・アイルランドといえばパブが有名ですが、そのパブでも2007年からは禁煙となり、「酒場も禁煙」はもはや常識です。アジアでも、最近、中国や韓国がレストラン内を禁煙にしました。台湾でも3人以上集まる室内は「煙害防止法」により禁煙です。これらの国々の飲食店が軒並み潰れたかといえば、もちろんそんなことはないのです。今なお日本では、居酒屋などでお酒を飲みながら喫煙する慣習が根強く残っていますが、このような諸外国と比較すると、まだまだ禁煙後進国ということが分かります。

 しかし、いつまでも禁煙後進国ではいられません。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは世界中から多くのお客様が日本を訪れます。そうしたお客様を「おもてなし」するためにもスモークフリー社会を実現しなければならないのです。我が地元・藤沢市も江ノ島がセーリング会場に選ばれており、藤沢から全国へ禁煙化を波及させていくくらいの覚悟で活動を強化していきたいと考えています。どの飲食店も禁煙が当たり前になり、『ごくうま-湘南の禁煙レストラン』から『禁煙』の文字が不要となる日が一日も早く訪れるよう、これからも頑張ってまいります。