松沢しげふみと笹川陽平のスモークフリーコラム

松沢しげふみと笹川陽平のスモークフリーコラム

神奈川が「受動喫煙防止条例」に踏み切った理由

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

神奈川県知事としての1期目に、私は、県民の死亡原因の第1位となっていたがんを克服しようと、「がんへの挑戦・10ヵ年戦略」を打ち立てました。この戦略を議論する過程で、私はタバコの害や受動喫煙の危険性について、改めて多くのことを知りました。

 また、欧米への出張の際に、レストランをはじめとする公共的な施設に灰皿を置いていないことや、そういった場所でタバコを吸っている人がまったくいないことにも気付きました
 そこで帰国後にさっそく調べてみると、欧米のみならずアジアの国々でも、受動喫煙防止に関する法律が、次々と制定されているということがわかったのです。
 前にもお話ししたWHOの「たばこ規制枠組み条約」の存在を知ったのもこのころでした。
 この条約は、タバコの消費およびタバコの煙にさらされることが健康や社会に及ぼす破壊的な影響から、現在および将来の世代を保護することを目的としたもので、2003年にWHOの総会において全会一致で採択され、2005年2月27日に発効した、公衆衛生の分野では初の国際条約です。締約国は、タバコの需要を減少させるための価格政策や、受動喫煙防止のための措置、タバコ製品の包装についての規則、広告・販売促進の禁止など総合的な対策が求められます。

 日本も、2004年3月にこの条約に署名しています。しかし当時、国はこの条約に関して十分な取り組みをしていませんでした。条約を批准していながら、なぜ日本は何の法整備もしないのだろうという、素朴な疑問が湧きました。
 一方そのころ、県内では、受動喫煙防止の自主的な取り組みがすでに始まっていたのです。
 2006年から鎌倉保険福祉事務所が始めていた「空気もおいしいお店」「空気もきれいなお店」認定制度がそれです。
 これは、飲食店、美容院、理容店などが禁煙、分煙、時間分煙などの対策を自主的に実施して、保健福祉事務所が飲食店を「空気もおいしい店」、美容院や理容店を「空気もきれいな店」として認定し、パンフレットやインターネットで公表するものです。同時にお店では、対策内容を示したステッカーを店頭に貼っていました。
 これは鎌倉市内だけでなく、隣接する逗子市や葉山町も対象としていましたが、お店選びの参考になるということで、地域住民や利用客にたいへん好評でした。私が視察したころには、認定店も増え続けていました。
 このことにはとても考えさせられたし、また、改めて神奈川県の先進力の一端を見た思いがしました。
 そこで私は、この取り組みを神奈川県全体に広げ、より確固とした制度をつくり上げることはできないだろうか、と考え始めるようになりました。
 そして、2期目の知事選挙に立候補するに当たって、県民の皆さんとも意見交換を重ねながら、選挙公約であるマニフェストの第1項目として、公共的施設における喫煙を禁止する条例の制定を目指すことを盛り込んだのです。
 そして2期目に入り、受動喫煙防止条例の制定に向けた取り組みをスタートさせ、条例の基本的な考え方を発表したころのことでした。私宛に1通のメールが届いたのです。
 それは、妊娠4ヵ月になる30代の主婦の方からでした。そこには、ご主人とうどん屋さんで食事をしていたときのことが記されていました。
 お2人がすでに食事を始めていたとき、あとから来た初老の男性が相席になりました。テーブルに灰皿は置かれていなかったのですが、その男性は、席に着くなりタバコを吸い始めたそうです。お二人は、そこで初めて、そのお店やその席が禁煙でないことに気付きました。
 彼女は、空調のせいでタバコの煙がすべて来ることにたまりかね、自分が妊娠していることを告げ、自分たちが食事を終えるあいだだけタバコを控えてくれるよう、男性に頼みました。
 するとその男性は、「あんたが妊娠しているかなんてこっちには関係ない。だったら禁煙席で食事をすればいいだろう」と怒鳴ったということです。 そうした体験を記したあとに、「反対意見も多数あると思いますが、この条例案をぜひ通していただき、他の都道府県のさきがけとなっていただきたい」と締めくくられていました。
 私にはこのエピソードが次のことを語っているように思えました。

 それは、タバコを控えてくれるよう頼まれた男性の反応から、受動喫煙の危険性について、一般にはまだ十分な理解が得られていないということです。その危険性を知らない以上、個人の嗜好について他人からあれこれと言われるのは、不愉快なことかもしれないと思ったのです。
 そうであれば、喫煙者個人のマナーに委ねるだけでは、受動喫煙の危険を避けることは困難です。
 もちろん、タバコに限らず、常識的なマナーを守れる人、守れない人がいる場面はいろいろあります。飲酒や電車内での携帯電話など、他人のマナーの悪さで不愉快な思いをすることもあります。逆に愛煙家にもマナーのきちんとした人は大勢います。
 それらのマナーの中で、とくにタバコについて問題視するのは、それが明らかに他人の健康に害を与えるからなのです。いくらマナーの向上を声高に呼びかけても、耳を傾けてもらえなければそれまでで、周囲の人たちは受動喫煙の危険にさらされ続けるのです。
 また、メールのお2人は入店時にこのお店が分煙を講じているかどうか確認することはできませんでした。そのためにこういう体験をしてしまったわけですが、そのような意図しない受動喫煙の被害にさらされないようにするためには、個人のマナーや店の判断に任せるのではなく、だれもがわかるルールを設ける必要がある、と私は考えました。
だれもがわかるルール、それが「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」なのです。

神奈川からつくる「スモークフリー社会」

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

私は「スモークフリー」という言葉を、日本人がだれでもわかるものにしたいと思っています。

「スモーク」で「フリー」だから、自由にタバコが吸えることだと思う人もいるかもしれませんが、それはまったく違います。この場合のフリーは、「バリアフリー」の「フリー」と同じ意味です。
バリアフリーというのは、バリア、つまり障壁をなくして、障害者にとっても移動しやすい環境にすることです。そしてスモークフリーというのは、タバコのない、タバコの煙から解放された、そういう環境にすることをいいます。この言葉は、欧米ではすでに一般名詞として使われ、その意味も広く理解されています。

「タバコの煙がいやだ」、「自分では吸っておらず健康にも害があるのに、なぜタバコの煙を吸わされなければいけないのだろう」という経験をしなくてすむ社会、それが「スモークフリー社会」です。タバコの煙のない、どこへ行っても空気がきれいな社会です。

私は、「スモークフリー社会」をつくることを目指していますが、この言葉の意味が日本人のだれにでもわかるようになったら、日本のタバコ対策はかなり前進したといえるでしょう。
今では一般的になった「バリアフリー」という言葉も、あらゆる人に障害となるものを取り除こうという考え方です。そうした意味ではタバコの煙も、一つのバリアだと思うのです。ですから、「スモークフリー社会」をつくることは、バリアフリー社会を完璧にすることだといえるかもしれません。

神奈川県では、現在スモークフリーのキャンペーンを展開しています。このキャンペーンは、受動喫煙防止条例の施行に合わせて、まずはこの条例の中身がどういうものなのかを、広く知ってもらおうという目的で行っています。
このキャンペーンには「スモークフリー・サポーターズクラブ」という応援団もついてくれました。サッカー日本代表の中澤佑二選手と、元テニスプレーヤーの杉山愛さんです。受動喫煙防止条例に大賛成してくれて、ありがたいことに、応援団になることを申し出てくれました。
二人ともスポーツ選手として、日ごろの健康管理には十分注意を払っているということです。「まえがき」でも紹介しましたが、受動喫煙を強いられることに対して、日ごろから思うところが少なからずあったようです。また、世界各地を遠征していて、海外ではすでにスモークフリーになっていることを実感していたそうです。
そして中澤選手は横浜のチーム、横浜F・マリノスに所属しており、杉山さんは神奈川県の出身で茅ヶ崎在住と、二人とも神奈川県に縁があるということで、スモークフリー社会をぜひこの神奈川県からつくりましょうと言ってくれたのです。
この応援団の輪は、その後、スポーツ選手だけではなく次々と広がりを見せています。ニュース番組のお天気キャスターの木原実さんや、モデルでタレントの長谷川理恵さんにも参加いただいています。

また、企業や団体の皆さんに条例の趣旨やスモークフリーを呼びかけていただく「条例応援団」という輪もできました。
ドラッグストアのハックドラッグ、ロイヤルホストや幸楽園などのファミリーレストラン、JR東日本や京浜急行などの鉄道会社をはじめ多くの企業や団体が参加して、ポスターを掲示したり、パンフレットを置いてくれたり、サポートをしてくれるようになりました。
大学生からの提言もありました。慶應義塾大学藤沢キャンパスの学生が、受動喫煙防止条例についてのアンケート調査を行なったうえで、2009年4月の受動喫煙防止条例の施行に先立って、トライアル(試行)的な取り組みを行ってはどうかという提言を持ってきてくれたのです。
この提言はその後、条例施行が2ヵ月前に迫った2010年2月4日から10日までの「スモークフリー」トライアル週間として実現しました。レストランや商店街、テナントビルなどにご協力をいただき、374店舗で条例の規則が始まる前の段階で先行して禁煙や分煙の徹底をしてくれたのです。このトライアル週間には、サポーターズクラブの長谷川理恵さんや、提案してくれた慶應義塾大学の学生もお呼びしてフォーラムを開催し、スモークフリー社会の実現に向けたアピールも行いました。

こういった心強い応援に支えられて、より多くの人たちにスモークフリーという言葉の意味や、受動喫煙防止条例の意義を理解してもらい、スモークフリー社会を神奈川県から広めていけたらと思っています。
No.006

東京五輪招致と受動喫煙防止条例

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

 いよいよロンドンオリンピックが始まります。いうまでもなく、オリンピックは世界最大のスポーツイベントで、経済社会に大きな影響を与え、人々に大きな感動を与えてくれます。

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 さて、東京が2020年のオリンピックの開催地に立候補しているのは皆さんご存知でしょう。2016年に次いで2回連続の立候補です。今回は東京有利といわれていますが、そう簡単にいきそうにはありません。そこには大きなハードルがいくつもあります。

 実は、WHO(世界保健機構)とIOC(国際オリンピック協会)は「タバコのないオリンピックを目指す協定」を結んでいるのです。スポーツの祭典であるオリンピックは、健康的な環境で開催されなければなりません。そのためにオリンピックにおける禁煙方針を採択し、会場の禁煙化のみならず、タバコ産業によるスポンサーシップも拒否しています。つまり、オリンピックのスモークフリー化を求めているのです。

 オリンピック招致に向けた東京の大きな弱点の一つは、すべての飲食店および宿泊施設を含めた公共的施設を対象とした罰則付きの受動喫煙防止条例が、まだ存在していないことではないか、と私は危惧しています。
 これまでのオリンピック開催都市であるバルセロナ(1992)、アトランタ(1996)、シドニー(2000)、アテネ(2004)、北京(2008)、ロンドン(2012)には、全て罰則付きの受動喫煙防止条例(法)が存在しています。あのタバコ天国の中国でも、北京五輪開催前に条例をつくりました。
 さらに、2020年のオリンピック招致に立候補している東京以外の都市、つまりマドリード(スペイン)、ドーハ(カタール)、イスタンブール(トルコ)にも、いずれも受動喫煙防止条例が制定されています。
 このような国際情勢を踏まえますと、東京が2020年の五輪開催を勝ち取るためには、WHOやIOCが求めている国際標準の受動喫煙防止条例を制定することが非常に重要です。これは五輪招致の絶対条件ではありませんが、必要条件だと思います。
それでこそ、都民のみならず、世界中から集まる人々の健康を保護できるからです。東京オリンピックの招致を確実にするために、東京都は今こそ受動喫煙防止条例を制定する決断が求められています。
No.005

タバコは大きな死亡原因、そして老化を確実に早める

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

 WHOも引用するイギリス・オックスフォード大学の研究者の推計では、2000年の日本国内の死亡者約96万人のうち、タバコを原因とする死亡者は約11万人に上り、その内訳は、がんが約6万1800人(55%)、心疾患が約2万1500人(19%)、呼吸器疾患が約2万人(18%)となっています。がんのうち約4万2200人が肺がん、呼吸器疾患のうち約1万1700人がCOPD(慢性閉塞性疾患)です。

 この数字は、2000年の病気以外のすべての死亡(他殺、自殺、交通事故死、転落・転倒死、溺死、窒息死、火災死、中毒死、その他の事故死)の合計7万3805人(人口動態統計調査)よりはるかに多いのです。
 また、国内の研究者の調査では、タバコを吸っていて病気で亡くなるリスクは、吸わない人と比べると、男性では消化器潰瘍が7.1倍、喉頭がん5.5倍、肺がん4.8倍、女性では肺がん3.9倍、COPD(慢性閉塞性疾患)3.6倍、心筋梗塞3倍となっています。この調査の結果では、男性の27.8%、女性の6.7%がタバコに関連した病気で亡くなっており、これらのデータを2005年の統計にあてはめると、年間死亡者約108万のうち、約20万人が原因で死亡したと推計しています。
 1994年にはイギリスの男性医師が、3万4439人を対象に行った大規模な追跡調査によって、喫煙者の平均寿命は非喫煙者より約10年も短いことがわかっています。
 また厚生労働省の調査でも、40歳の男性喫煙者は非喫煙者より3.5年も短くなるという数値が出ています。イギリスと日本とでは数値に違いはありますが、吸い続けると確実に人生が短くなるという点は同じです。

 タバコは健康に悪いどころか、死に直結しているのです。
 男性にとってもそうでしょうが、女性にとって特に深刻なことには、タバコは老化を早めるという調査結果が出ています。タバコの一酸化炭素やニコチンが皮膚の血流障害を起こし、シミ、しわを増やすのです。また、タバコをコラーゲンの生成を促すビタミンCを破壊するので、その結果老化が進んでしまいます。
 コラーゲンとは元々体内にあって腱や骨、軟骨、皮膚などに弾力性を持たせる働きをしています。体内で新陳代謝を繰り返しているのですが、、歳をとるに従ってどんどん新陳代謝の速度が落ちてくるのです。その結果、コラーゲンが古くなり、硬くなってしまって数々の老化現象が起こってくるのです。

 健康面においても重要なものですが、美容面においても大切な役割を担っています。肌にハリや潤いを与える効果があり、不測するとシミやしわ、たるみの原因になってしまうのです。近ごろではコラーゲンの効用が一般に浸透し、化粧水や料理などにもコラーゲン入りのものが多く出回るようになりました。
 女性は美容に気を使い、一生懸命お化粧に力を入れていますが、タバコを吸ったり、吸う人の身近にいたりする女性は、実はそうした努力を台無しにしているのです。タバコを吸わず、他人のタバコの煙を吸い込まなければ、お化粧をしなくてもいきいきとした素肌を保てるでしょう。
 老化以上に深刻なことには、タバコは男女共に不妊の原因になっているということです。タバコを吸っていると、女性の卵子の染色体異常が増えて不妊を引き起こし、体外受精の成功率も低くなるというのです。本人が喫煙しなくても、受動喫煙にさらされているだけで不妊の原因になるのです。タバコは命を縮め、死に直結し、老いを早めるだけでなく、生まれてくる新しい命をも減らしてしまうのです。
No.004

「かながわ卒煙塾」でニコチンから解放

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

喫煙者の中には、「がんになってもいい」とか「おれだけはがんにならない」とか言ってタバコを吸い続ける人もいますが、実際にがんになるとタバコをやめています。

本当は、医者から、「タバコをやめないとがんになりますよ」と強く言われればみんながタバコをやめるのでしょうが、以前は医者の中にもタバコを吸う人が多く、患者に対して強く言うことができなかったのです。

しかし、今ではタバコは肺がんのみならず全身のあらゆるところのがんや、脳卒中、循環器系の病気など、さまざまな病気の原因になっていることが明らかになっています。そして医療の現場でも積極的に禁煙治療が行なわれるようになりました。

禁煙治療は、読んで字のごとく、禁煙をするための治療です。主な治療法は、ガムタイプやパッチタイプの薬で、口の粘膜や皮膚からニコチンを補って、禁煙によるイライラなどの禁断症状を和らげ、徐々に量を減らしてニコチン依存を解消しようというものです。最近では、ニコチン依存に関係している脳の部分に働きかける飲み薬も開発されました。

 実はこの禁煙治療には2006年から、一定の条件を満たせば健康保険が適用できるようになりました。つまり、喫煙は趣味や嗜好の問題ではなく、麻薬と一緒の常習性の問題とみなされるようになったのです。

つまり、ニコチン依存症という立派な病気であり、治療してあげなければいけない
。そして、病気である以上、医療保険でやってあげようということになったのです。
タバコを吸っている人は、そういう認識を持ってできるだけタバコを卒業する努力をしてほしいと思います。

神奈川県では、2010年4月の受動喫煙防止条例の施行にタイミングを合わせて、さまざまな団体とも協力しながら総合的なタバコ対策を進めています。

そして、この一環として「かながわ卒煙塾」をスタートしました。禁煙を希望する喫煙者や禁煙してほしい家族がいる方に対して、講習会をはじめとした総合的なサポート体制を提供し、見事禁煙に成功した人に卒煙証を授与しようというものです。インターネットを通じても受講申し込みができますので、ぜひとも多くの皆さんのご参加をお待ちしています(「かながわのたばこ」で検索)。
そして、この本の原稿締め切り直前に、「かながわ卒煙塾」の塾長が決まりました。なんと俳優の舘ひろしさんが塾長に就任してくれたのです。舘さんは最もタバコが似合うスター俳優でしたが、見事卒煙に成功し、さらに最も健康的でカッコイイ俳優に変身しました。これからは塾長として、自らの経験を多くの卒園希望者やその家族に伝え励ましたいと大役を買って出てくれたのです。

本当に有難いことです。喫煙者の皆さん、舘塾長とともに、卒煙に挑戦してみませんか。

神奈川だけでなく多くの自治体で、禁煙サポートに向けたさまざまな取り組みが実施されています。こうした行政の支援も利用しながら、多くの皆さんが卒煙にチャレンジし、健康生活への第一歩を踏み出していただきたいと思います。
No.003

守らなくてもお咎めのない「健康増進法」

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

 2003年5月に「健康増進法」が施行されました。この法律は、タバコだけでなく健康を全体に増進するために、「運動しましょう」とか「飲みすぎに注意しましょう」とか健康を維持するために国民が努力しなければいけないことが書いてあります。
 その第25条が受動喫煙の防止に関する項目です。条文をそのまま書き出します。

「学校、体育館、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用するものについて、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」

 要するに、こうした施設ではできるだけ受動喫煙を防止するために、事業者が「努力をしなければならない」ということです。あくまでも努力義務なのです。努力義務ですから、守らなくてもお咎めがなく、結果として誰も守らないのです。

 実は、日本も締約国となっている、WHOの「たばこの規制に関する世界保健機構枠組条約(通称・たばこ規制枠組み条約)」の目的からすると、健康増進法の第25条は条件を満たしていません。

 なぜならば、WHOの条約では、タバコの煙にさらされることに対して、「立法上、執行上、行政上の措置を実施すること」と謳っているのです。そして、条約のガイドラインで「立法措置は、責任及び罰則を盛り込む」ことを明記しています。つまり、罰則付きのきちんとした法律を作っていく必要があるということです。

 私は常々「受動喫煙防止法」を作れと言っています。政府がなかなかそこまで踏み込まないので、私が知事を務めていた時、まず神奈川県から、きちんとした罰則付きの規制条例を作りました。

 これを他の県に広めていけば、国もやらざるを得なくなるのではないかと期待しています。厚生労働省が「日本も努力していますよ」と言っても、WHOの基準に満たない努力義務の法律では何の役にも立たないと考えるからです。

 私は、2009年8月の総選挙にあたって、民主党の鳩山代表(当時)に、受動喫煙防止法の制定をマニフェストに入れるべきだと提案しました。国民の8割近くがタバコを吸わない人なのだから、マニフェスト打ち出せば、絶対に賛成の方が多いですよと進言したのです。

 タバコの問題は大変身近な問題なので、吸う人も吸わない人もみんなが意見を持っています。みんなが一言言いたいテーマなのです。財政問題や国際問題、税制の話をしても、一部の政治に詳しい人意外はすぐに自分の意見を言うことができません。
 しかし、タバコの問題というのはみんなが興味のあるテーマなので、総選挙でマニフェストの中で展開したら面白いのではないかと思ったのです。

 例えば、笹川会長がタバコ1箱1000円という提案をすると、あっという間にメディアが大騒ぎになります。国民みんなが興味のあるテーマに、国政が率先して取り組むことが重要だと思います。そして、こうした新たな政策を大胆に実行するためには、政権交代が千載一遇のチャンスになるのです。

 最近笹川会長のところでタバコ1箱1000円を求めるバッジを作ったそうです。こういうバッジがエイズ防止のレッドリボンのようにステイタスとして若者などに広まっていくと面白いですよね。
 こういう問題ならばマスコミも話題にしやすいはずです。鳩山代表には、私だって神奈川県でそれを全面に打ち出して当選したのだからと言ったのですが、私の進言は民主党のマニフェストには採用されませんでした。

 民主党の中には、私の意見に賛同してくれる人も多いのですが、民主党の支援母体にタバコ産業に関連する団体もあるので難しかったのかもしれません。

 2010年2月に、厚生労働省は、健康増進法第25条について、受動喫煙を防止するための措置としては、分煙ではなく原則禁煙とすべきことを地方自治体に通知しました。

 この方向性そのものは、国として受動喫煙防止に向けて一歩進めようというものであり歓迎すべきものです。しかし、現実の問題として、健康増進法第25条の規定が変わったわけではありません。そして、罰則を置かないこの規定では、公共交通機関などの取り組みを促すことはできても、営業に直接の影響を受ける飲食店などの重い腰を上げさせることはできません。これは健康増進法の制定後7年間の実績が証明しており、通知で法律の解釈を変えたところでその実態が大きく変わるものではありません。

 喫煙できるかできないかが、お客から選択される物差しとなる限り、経営者として現状を継続する判断をするのは当然のことです。このためにも、罰則を盛り込んだ法制度の整備がどうしても必要なのです。

 本来は、WHOの「たばこ規制枠組み条約」の方針に則り、政府として受動喫煙防止のための法律を制定すべきなのに、地方自治体に通達をだしてごまかす。これは責任転嫁に他なりません。
 相変わらずの霞が関流「通達行政」を繰り返すのではなく、国民全体できちんと議論を重ね、実効性のある法制度を構築しなければ、受動喫煙防止は徹底しないでしょうし、社会のルールとして定着しないでしょう。
No.002

タバコが開ける非行の窓

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

青少年の非行の大きな原因は、一に夜間徘徊、二に喫煙といわれています。
コンビニの前でたむろしたり、夜遊びをする中学生や高校生にはタバコを吸っている子どもを多く見かけます。タバコを吸い、酒を飲んで、大人の気分や社会のルールを破るスリルに浸るのです。

日本では、伝統的に飲酒喫煙に寛大な国民性があるようです。かつては、軽微な犯罪ならば「すみません、酒を飲んでいて覚えていないのです」という言い訳が通ってしまっていたのも日本ならではのことでしょう。

そして、「自分だって、若いときからどっちもやってきたけれど、ちゃんと立派な大人になった」と自慢げに話す人が大勢います。そして、青少年の飲酒や喫煙も、少しぐらいは大目に見てやってもという大人がまだまだ多いのです。

未成年の飲酒や喫煙は犯罪行為です。それは何より、青少年自身の発育にとって重大な悪影響があるからなのです。ところが、禁ずるべき大人が寛容であるため、彼らが「少しぐらいなら許される」と、法律を破ることに慣れてしまうのです。

そうなると、後は坂道を転がるように犯罪行為がエスカレートしていきます。飲酒や喫煙で法律を破ることに無頓着になり、その後、麻薬などの薬物に手を出すなど、非行に走る例は、我々の想像以上に増えているのです。
ですから、飲酒や喫煙の段階で食い止めないと、非行少年の増加を止めることができないことになります。

そこで、神奈川県では、平成18年に、タバコやお酒を販売するときには、必ず証明書などで年齢確認をしてから売ることなどを事業者に義務付ける「青少年喫煙飲酒防止条例」を制定しました。成果はだいぶ出てきて、コンビニなどでの年齢確認が徹底されるようになりました。

外国の例を見ると、未成年は、お酒が飲める店に入ることさえ禁止している国があります。私の知人は、カナダに留学していた高校生の息子を訪ねたとき、お酒を提供しているからという理由だけで、レストランへの入店を断られたとびっくりしていました。

笹川会長は、「学校もPTAももう少ししっかりして、子どもに吸わせないようにしなくてはいけない。それにはもう値段を高くする以外にない」と言っておられますが、まさにそのとおりです。

タバコの価格は未成年の喫煙率に直接跳ね返るので、たくさんの子どもたちが喫煙をやめると期待されています。
最近は、学校でも喫煙の害を教えるようになってきました。

神奈川県は、中高一貫の県立学校として、平成21年度に平塚中等教育学校を設置しました。この学校では、保健体育の授業の中で「タバコの害」について教えています。

私は、知事時代、「マンスリー知事学校訪問」と銘打って、月に一度は学校現場を訪問しており、この学校を実際に訪問しました。私が学校訪問で行ったときには、先生がスクリーンに映像を映し出して、喫煙の害について説明していました。

先生が、「心筋梗塞や脳梗塞など、タバコが原因となる病気について、かなりわかったと思います。みんなはタバコを吸わないけれど、タバコがみんなの体にどれだけ影響するかということはわかりましたか?」と尋ねると、生徒はそのたびに大きく頷き、特に先生が、「タバコを吸う人の寿命は吸わない人に比べて、10年短いといわれています」と説明したときには、生徒たちは大きな驚きの声を上げていました。

このように、子どものうちから、タバコが健康に及ぼす悪影響についてきちんと勉強し考える機会をつくることが、健康社会を実現する上で大変重要だと思います。
No.001

タバコはもはや時代遅れ

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

 タバコについては、最近、いろいろと話題になっています。皆さんも、「全国で初めて神奈川県で受動喫煙を防止する条例ができたね」、「厚生労働省からも通知が出たようだ」、「タバコの値段がまた上がるな」、「そういえばタバコを吸えない飲食店が増えてきたな」など、さまざまな感想をお待ちのことでしょう。
 そんなタイミングでこのウィブ・サイトをつくることになりました。このサイトでは、未近な話題として、タバコを吸うとどれだけ損をするか、タバコを吸わないとどれだけ得をするかということについて、個人の損得や社会の損得の問題として、「タバコ1箱1000円」を投げかけている日本財団の笹川陽平会長と一緒に考えていきます。
 かつて、「タバコはカッコイイ」という時代がありました。人気の映画やドラマでは、息もつけないような緊迫したシーンのあとで、主人公がタバコで一息つくような情景描写が数多く見られました。タバコは大人の証といわんばかりに、いつか大人になってタバコを吸う、その情景を重ね合わせていた子どもも多かったのではないでしょうか。
 私の子どものころは、スポーツといえば野球とプロレスぐらいでしたが、最近ではさまざまなスポーツが映像で流され、スポーツ選手に注目が集まるようになりました。
 神奈川県では、2009年3月に「受動喫煙防止条例」を制定し、2010年4月から施行しました。条例の周知活動「スモークフリーキャンペーン」には、神奈川ゆかりのあるスポーツ選手、Jリーグ横浜F・マリノスで活躍中のサッカー日本代表のキャプテン中澤佑二選手と、元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんにも参加いただいています。
 日本代表として、数々の国を訪れている中澤選手は、こう話してくれました。
「僕らサッカー選手は、90分間、縦105m横68mのピッチを駆け回らなければならないんですよ。タバコを吸うなんて考えられないですね。他人の吸うタバコの煙にも気をつけています。試合でいろんな国に行きますけど、
欧米に比べて日本も含めたアジアの国はまだまだ遅れていますね。ぜひこの『吸わない人には吸わせない』というムーブメントを広げてほしいですね」
 また、テニスのダブルスで、四大大会などで4回優勝し、世界ランク1位にのぼりつめたトッププレーヤーの杉山さんも、次のような感想を語ってくれました。
「私の現役時代は1年の大半が海外でのツアー生活だったのですが、海外では、空港、ホテル、タクシー、レストランなどは禁煙があたりまえですね。イギリスのパブ、フランスのカフェなど、タバコと縁が深いと思われるような場所も禁煙や完全分煙になっていました。それに慣れた目で見ると、日本での喫煙事情はまだまだ遅れていると感じています。私が生まれ育った神奈川から、日本に『スモークフリー社会』を広める動きが始まったことは大変嬉しく思います」
 プロスポーツの世界では、トップランクの選手がタバコとは無縁であるというのは常識なのです。健康的でハツラツとしたお二人の姿を見れば、スポーツ選手でなくてもタバコを吸おうという気にはならなくなります。
 さらに神奈川県では、2010年3月に、都道府県では初めて海水浴場を原則禁煙とする条例改正をしました。夏の輝く太陽のエネルギーを全身に受け止める健康的な海水浴には、吸殻やタバコの煙は似合いません。安全できれい、快適なビーチにすることで、神奈川の美しい海水浴場のイメージアップも図れると思っています。
 厚生労働省の平成20年度国民健康・栄養調査では、日本成人の喫煙率は21.8%であり、すでに8割の人はタバコを吸いません。タバコはすでに時代遅れで、何より健康に様々な悪影響を及ぼします。そして、あなたの身近な人の健康を損なうことすらあるのです。

松沢しげふみ

松沢成文(まつざわ しげふみ)

1958年4月2日神奈川県生まれ。
慶應義塾大学法学部政治学科卒。
同年、(財)松下政経塾に、第3期生として入塾。
1984年、米国ワシントンDCにて、ベバリー・バイロン連邦下院議員のスタッフとして活動。
1987年、松下政経塾卒塾後、同年4月川崎市麻生区より神奈川県議会議員に立候補(無所属)、県政史上最年少議員として初当選。1991年4月2期目当選。
1993年7月、衆議院初当選。1996年2期目。2000年3期目。
2003年4月、神奈川県知事に就任。
2011年4月、神奈川県知事を2期務め退任。
現在、筑波大学客員教授や明治大学兼任講師、PHP総研コンサルティングフェロー、一般社団法人首都圏政策研究所代表理事、一般社団法人スモークフリージャパン代表理事などを務める。
吉本興業グループに所属、同社とともにエリアプロジェクトを推進。

関連リンク

分煙社会・スモークフリーとはWHOのたばこ規制条例
神奈川県における受動喫煙防止条例禁煙・卒煙のススメ