スモークフリーコラム

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守らなくてもお咎めのない「健康増進法」

一般社団法人スモークフリージャパン 松沢しげふみ

 2003年5月に「健康増進法」が施行されました。この法律は、タバコだけでなく健康を全体に増進するために、「運動しましょう」とか「飲みすぎに注意しましょう」とか健康を維持するために国民が努力しなければいけないことが書いてあります。
 その第25条が受動喫煙の防止に関する項目です。条文をそのまま書き出します。

「学校、体育館、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用するものについて、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」

 要するに、こうした施設ではできるだけ受動喫煙を防止するために、事業者が「努力をしなければならない」ということです。あくまでも努力義務なのです。努力義務ですから、守らなくてもお咎めがなく、結果として誰も守らないのです。

 実は、日本も締約国となっている、WHOの「たばこの規制に関する世界保健機構枠組条約(通称・たばこ規制枠組み条約)」の目的からすると、健康増進法の第25条は条件を満たしていません。

 なぜならば、WHOの条約では、タバコの煙にさらされることに対して、「立法上、執行上、行政上の措置を実施すること」と謳っているのです。そして、条約のガイドラインで「立法措置は、責任及び罰則を盛り込む」ことを明記しています。つまり、罰則付きのきちんとした法律を作っていく必要があるということです。

 私は常々「受動喫煙防止法」を作れと言っています。政府がなかなかそこまで踏み込まないので、私が知事を務めていた時、まず神奈川県から、きちんとした罰則付きの規制条例を作りました。

 これを他の県に広めていけば、国もやらざるを得なくなるのではないかと期待しています。厚生労働省が「日本も努力していますよ」と言っても、WHOの基準に満たない努力義務の法律では何の役にも立たないと考えるからです。

 私は、2009年8月の総選挙にあたって、民主党の鳩山代表(当時)に、受動喫煙防止法の制定をマニフェストに入れるべきだと提案しました。国民の8割近くがタバコを吸わない人なのだから、マニフェスト打ち出せば、絶対に賛成の方が多いですよと進言したのです。

 タバコの問題は大変身近な問題なので、吸う人も吸わない人もみんなが意見を持っています。みんなが一言言いたいテーマなのです。財政問題や国際問題、税制の話をしても、一部の政治に詳しい人意外はすぐに自分の意見を言うことができません。
 しかし、タバコの問題というのはみんなが興味のあるテーマなので、総選挙でマニフェストの中で展開したら面白いのではないかと思ったのです。

 例えば、笹川会長がタバコ1箱1000円という提案をすると、あっという間にメディアが大騒ぎになります。国民みんなが興味のあるテーマに、国政が率先して取り組むことが重要だと思います。そして、こうした新たな政策を大胆に実行するためには、政権交代が千載一遇のチャンスになるのです。

 最近笹川会長のところでタバコ1箱1000円を求めるバッジを作ったそうです。こういうバッジがエイズ防止のレッドリボンのようにステイタスとして若者などに広まっていくと面白いですよね。
 こういう問題ならばマスコミも話題にしやすいはずです。鳩山代表には、私だって神奈川県でそれを全面に打ち出して当選したのだからと言ったのですが、私の進言は民主党のマニフェストには採用されませんでした。

 民主党の中には、私の意見に賛同してくれる人も多いのですが、民主党の支援母体にタバコ産業に関連する団体もあるので難しかったのかもしれません。

 2010年2月に、厚生労働省は、健康増進法第25条について、受動喫煙を防止するための措置としては、分煙ではなく原則禁煙とすべきことを地方自治体に通知しました。

 この方向性そのものは、国として受動喫煙防止に向けて一歩進めようというものであり歓迎すべきものです。しかし、現実の問題として、健康増進法第25条の規定が変わったわけではありません。そして、罰則を置かないこの規定では、公共交通機関などの取り組みを促すことはできても、営業に直接の影響を受ける飲食店などの重い腰を上げさせることはできません。これは健康増進法の制定後7年間の実績が証明しており、通知で法律の解釈を変えたところでその実態が大きく変わるものではありません。

 喫煙できるかできないかが、お客から選択される物差しとなる限り、経営者として現状を継続する判断をするのは当然のことです。このためにも、罰則を盛り込んだ法制度の整備がどうしても必要なのです。

 本来は、WHOの「たばこ規制枠組み条約」の方針に則り、政府として受動喫煙防止のための法律を制定すべきなのに、地方自治体に通達をだしてごまかす。これは責任転嫁に他なりません。
 相変わらずの霞が関流「通達行政」を繰り返すのではなく、国民全体できちんと議論を重ね、実効性のある法制度を構築しなければ、受動喫煙防止は徹底しないでしょうし、社会のルールとして定着しないでしょう。

関連リンク

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